米国連邦委員会の包括的なミティゲーションの定義は下表の通りとなっていますが(出典:同上)、1978年の米国環境保全審議会(CEQ)が設定した指導要綱では、以下の表中の「回避
(Avoid )」「最小化 (Minimize )」「代償 (Compensate
)」がその方向性として示されています。
(出典:ミチゲーションと第3の国土空間づくり -沿岸域環境保障の考え方とキーワード-、水環境創造研究会編著、共立出版株式会社発行、1997
)。
mitigation措置 | 内 容 |
回避 (Avoid) | ある種の行動またはその部分的な行動の一部をしないことにより 全体的に影響を避ける。 |
最小化 (Minimize) | ある種の行動及びその実施の程度または規模を小さくすることにより 影響を最小限にする。 |
矯正 (Rectify) | 影響を受けた環境を修復、再生または回復することにより 影響を矯正する。 |
低減 (Reduce) | ある種の行動をとっている期間中の保存及び維持により 時間をかけて影響を低減もしくは除去する。 |
代償 (Compensate) | 代替的な資源または環境で置き換えるかそれを提供することにより 影響を代償する。 |
いずれにしても、ミティゲーションについては、その定義や内容は、米国においても統一されたものではありませんが、すでに米国では専門の調査会社ができたり、ミティゲーション・バンキングという新しい概念による環境創造のストック手法等様々な角度からアプローチが進んでいるようです。
ミティゲーションについてのわが国の取り組みは、今はじまったばかりといえます。建設省、続いて環境庁が本腰を入れはじめたところといってもいいでしょう。まだ、ミティゲーションは、その的確な日本語訳すら存在しません。日本的な新しいミティゲーションを模索するいい機会が今ともいえましょう。
持続可能な発展とは、ローマクラブの報告書「成長の限界」に対して、それをより発展させた概念といえます。成長の限界は、地球やその資源は巨大なものではあるが、人類およびその活動の成長には、いずれ限界が来ることを示唆しています。
(余談ですが「成長の限界」は先進国と開発途上国が協力して、宇宙船地球号を考えるとするきっかけとなりました)
持続可能な発展は、自然とともに成長(発展)を続けていこうとする、いわば成長限界論に対するひとつの回答であり、その具体的な行動計画が、アジェンダ21であると思います。
前者はトータルとして正味で環境増加・獲得をはかることを、後者は同じくトータルとして正味で環境損失・減損にならないことをいいます。どちらかというと、前者の方がパッシブですね。後者は、「環境影響はほとんどない」「軽微である」などにとどまっている感じがあります。現在のところ、ミティゲーションの定量的な評価はきわめて困難であるため(エコ・バリューの項で後述)、環境影響評価やアセスメント手続きの場では、 no net loss をめざし、さらに開発計画トータルとして net gain を指向するという方向だろうと思います。
損なわれる環境を代替する資源または環境計画の立案は、損なわれる環境の客観的把握にのみかかっているといっても言い過ぎではないような気が個人的にはします。もちろん、開発計画はそれらを開発計画立案時点で避けている(Avoid)はずですが、損なわれる環境の中には多くの人々にとって代替不可能な環境もあるでしょうし、ごく少数の生物にとってのみ貴重な環境もあるでしょう。これらをどのように評価していくかがもっとも大きな課題であり、同時にミティゲーションの導入にあたって、もっとも困難なステップであるといえます。
ミティゲーション技術を論ずる多くの文献が、目標設定が大切であることを強調していますが、これは先に述べた損なわれる環境の客観的把握があってはじめてできることであると思います(だからこそ、目標設定を強調しているのでしょう)。しかし、実際問題として、この「損なわれる環境の客観的把握」はきわめて困難です。なぜなら「環境」はあまりに大きなテーマでありすぎて、それを客観的に定量化することはほとんど不可能だからです。
今の考え方でできることは、環境アセスメントの基本である環境の現況を客観的にかつ定量的に把握することだけかもしれません。影響予測のためだけに現況を把握するのではなく、将来の損なわれる環境(そして、現在損なわれている環境←あらたな環境創造事業なり施策を検討する際にとても参考になります)をできる限り詳細に把握し、大きな環境要素(視点、尺度、単位)にまとめあげることが重要です。この件については以下のエコ・シートの項で述べたいと思います。
ミティゲーションの導入にあたって、あらたな環境創造事業なり施策を検討することになるでしょう。この客観的検討もまた非常に難しいものです。環境損失 (loss)と環境獲得 (gain)。このバランスをどうみるのか。この辺から入ることにしましょう。
これは、次のエコ・シーソーにいたる重要なアプローチです。また、環境に関するすべてを共通の単位で把握することができる夢の単位(エコ・バリューの項で述べます)が開発されていない今の段階における唯一のアプローチでもあります。
次は、「環境損失」側に、開発で損なわれるであろう環境を、どんどん記入していきます。海面埋立であれば、埋立により消失する環境を記入すればいいのです。海岸線へのアクセスが悪くなるとか、見晴らしが悪くなるとか、そこに住まう底生生物がその場を追われるとか、いろいろ考えられるでしょう。そして、これらを先に想定した環境要素に沿って整理していきましょう。この作業は、できる限り定量的かつ客観的に行われなければなりません。
今度は、「環境獲得」側に置く事業ないし施策を考えてみましょう。これは、先の原因系から作成した環境要素に沿って考えないと、ひとりよがりの事業になってしまいます。まず、対策ありきではなく、あくまで「環境損失」があって、その代償としての環境創造事業であり施策でないと、ミティゲーションのストーリーは成り立ちません。結果誘導型のミティゲーションは存在しないと思わねばなりません。
この際には、目標の設定が重要なステップになります。客観的かつ定量的な環境把握が行われておれば、「回復目標」を設定しましょう。現在損なわれている環境を把握し、この回復目標を策定できれば最高です。
サンセット公園をつくって、180度の展望で夕日を眺めることができるとか、防波堤に新しい潮間帯生物の生息場所ができるとか、藻場ができて小魚たちが成長するとかなど、なるべく環境要素に沿ってどんどん整理していきましょう。 そして、これらを同じ環境要素のグループごとにできる限り客観的かつ定量的に把握しましょう。この際、その単位は、海岸線の総延長でも消失面積でもなんでもいいんです。同じような単位のものを同じ環境要素としたはずですから、環境要素のなか同士ではある程度の比較は可能であるはずです。とにかくやってみましょう。
環境創造事業のなかには、作成した環境要素に入らないものも出てくるでしょう。しかし、先の理由から、それは多くの場合は、ミティゲーションのメインストーリーとなりえません。それらは、直接的に環境損失を代償する事業ではなく、それらを支援する事業にしかなり得ないと思います。それでも作業は続けましょう。支援事業も環境創造であり、立派なミティゲーションです。
手順 | 作 業 内 容 |
1 | 客観的かつ定量的な現況環境把握 |
2 | 客観的かつ定量的な将来の環境損失の把握 |
3 | 環境損失に対する環境創造事業の立案 |
4 | 同じような尺度、単位をまとめた「環境要素」による整理 |
5 | 環境創造事業の分類(直接的事業と支援事業) |
こうして、エコ・シートができたなら、これを次に示すエコ・シーソーで比較して、関係者間のアセスメントをはかりましょう。
先に作成した、エコ・シートをもっともわかりやすく表現したものと考えてくださってもいいでしょう。異なるものを一度に比較することは非常に困難です。しかし、ミティゲーションは、これにあえて挑むことからはじまります。
そして、このシーソーがバランスすれば大したものです。シーソーが静止する必要はありません。ゆらゆらとしながらでも動的に釣り合えばそれで成功です。
しかし、多くの場合はシーソーがバランスしません。というか、バランスしているかどうかすら判定困難なんですね。単位は異なるし、その価値感も人により全く異なるかもしれません。その場合は、少なめにメリットを見積もることが肝要です。誰もがなんとなくバランスしているなぁと思うようなシーソーをつくること。これが最初の、そしてもっとも大事なステップです。
何度も書きますが、メリット・デメリットは同じ単位であっても比較困難ですから、このエコ・シーソーのダイナミック・バランスは非常に困難です。しかし、シーソーはそもそも一定の状態で停止するものではありません。ギッコンバッタンと揺れ続けるものです。まずはエコ・シーソーをつくること。そしてそのダイナミック・バランスをみること。後で少し論理的裏付けが必要ですが、このステップが関係者間のアセスメント(合意形成)の際にはもっとも重要なステップです。ミティゲーションという新しいアセスメントにとって、エコ・シーソーは非常に重要な役割を果たすのです。
しかし、この環境に関するすべてを共通の単位で把握することができる夢の単位エコ・バリューをなんらかの形で開発・標準化していくことは、非常に重要なことであると思います。様々な事例を元に、エコ・バリューを検討してみる。この研究が今後のミティゲーションのあり方に対するひとつの指針であると私は思っています。
環境損失してしまった場合には、後世の人々はそれを忘れてしまいがちです。環境損失の苦しみを、言い換えればミティゲーション計画策定の苦労を後世に残す意味でも、環境とはこんなに貴重なものなんだよということをパッシブにアピールしていくしくみが必要です。
どうしてもダイナミック・バランスしないエコ・シーソーの場合は、特にそのバランスを後世に託すことが重要になってきます。バランスしているエコ・シーソー(これが存在するのかどうか、また存在するとすればそれがどのような客観的評価に基づくものか知りませんが)であったとしても、環境もしくは環境創造の重要さのアピールは重要であると思います。
この新しいミティゲーションは、損なわれた環境の代償とかいった後ろ向きのものではありません。ハードウェア的・ソフトウェア的な環境創造という、もっと前向きなものです。「ミティゲーション」とは、開発行為の中で、「環境損失」と「環境獲得」、言い換えれば「環境保全」と「環境創造」を高度なレベルでダイナミックにバランスさせることをいう概念であり、その手法のひとつが今回提示させていただいているエコ・シートであり、エコ・シーソーであると私は思います。
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